自己肯定感とメンタルヘルスの関係については、様々な研究や論文がありますが、ここではいくつかの代表的なものを紹介します。
- 一つ目は、中間玲子が行った「自尊感情と心理的健康との関連再考」1という研究です。この研究では、自尊感情(自分自身に対する肯定的な評価)と心理的健康(幸福感や主体性)との関係を検討しています。その結果、自尊感情と共に「恩恵享受的自己感」という概念も心理的健康に関連することが示されました。恩恵享受的自己感とは、自己の周りの環境や関係性に対する肯定的感情から付随的に経験されるであろう自己への肯定的感情であり、性役割や文化的価値による抑制を受けない自己への肯定的感情であると考えられます。この研究は、自尊感情だけでなく、恩恵享受的自己感も心理的健康を高める要因であることを示しています。
- 二つ目は、萩原志織と甲田宗良が行った「メンタルヘルス向上のためのセルフコンパッション研究の動向と今後の展望」2という論文です。この論文では、セルフコンパッション(自分に対する思いやり)とメンタルヘルス(抑うつや不安など)との関係や、セルフコンパッションを育むプログラムの効果についてレビューしています。その結果、セルフコンパッションはメンタルヘルスを改善する効果があることが多くの研究で報告されており、セルフコンパッションを育むプログラムも有効であることが示されています。しかし、一部の人々はセルフコンパッションを受け入れることが難しいことも指摘されており、その理由や解決策については今後の研究が必要であることが述べられています。この論文は、セルフコンパッションがメンタルヘルス向上に有用な概念であることを紹介しています。
- 三つ目は、松本隆司らが行った「大学生の自己肯定感を高める学習支援プログラムの開発」3という研究です。この研究では、大学生に対して、自己肯定感(長所も短所も含めて自分が存在していることを肯定する感情)を高めることを目的とした学習支援プログラムを実施し、その効果を検証しています。具体的には、以下のようなプログラムを行いました。
- 自分の長所や短所について考えるワークシートを作成する。
- 自分の長所や短所についてグループで話し合う。
- 自分の長所や短所について他者からフィードバックを受ける。
- 自分の長所や短所について再考するワークシートを作成する。
- 自分の長所や短所についてグループで再話し合う。
このプログラムは、大学生30名に対して4回にわたって実施されました。その結果、以下のようなことが明らかになりました。 – プログラム参加者は、プログラム前後で自己肯定感が有意に上昇した。 – プログラム参加者は、プログラム前後で自尊心や自愛心も有意に上昇した。 – プログラム参加者は、プログラム後に自分の長所や短所についてより客観的に認識できるようになった。 – プログラム参加者は、プログラム後に他者からのフィードバックを受け入れやすくなった。
この研究は、自己肯定感を高めることが可能な学習支援プログラムを開発し、その効果を実証したものであり、大学生の学習やキャリア形成に役立つと考えられます。
以上のように、自己肯定感とメンタルヘルスの関係に関する研究や論文は多岐にわたっています。しかし、これらの研究や論文はあくまで一般的な傾向や効果を示しており、個人差や文化差なども考慮する必要があります。自己肯定感を高める方法は一様ではなく、自分に合った方法を見つけることが重要です。また、自己肯定感だけでなく、他者との関係性や社会的支援などもメンタルヘルスに影響する要因です。自己肯定感とメンタルヘルスの関係については、今後もさらなる研究が必要です。
自己肯定感を高める方法
自己肯定感とセルフコンパッションの関係
自己肯定感とセルフコンパッションの関係に関する情報を提供します。自己肯定感とは、自分の能力や価値に対する肯定的な評価や信頼のことで、セルフコンパッションとは、苦しみや失敗の経験に直面したときに、自分に対する思いやりの気持ちを持ち、否定的経験を人間として共通のものとして認識し、苦痛に満ちた考えや感情をバランスが取れた状態にしておくという感情的にポジティブな自己態度のことです。これらの概念は似ているように見えますが、実際には異なる側面を持っており、メンタルヘルスや幸福感にも異なる影響を与えることが研究で示されています。
以下では、自己肯定感とセルフコンパッションの関係について、信頼できる研究や論文に基づいて説明します。
- 一つ目の研究は、テキサス大学オースティン校のKristin Neff氏とMichael F. Steger氏によって行われたもので、2009年に『Journal of Happiness Studies』に掲載されました1。この研究では、セルフコンパッションと自己肯定感が幸福感や生きがい感などの心理的健康指標とどのように関連しているかを調べました。研究のデザインは相関研究で、サンプルサイズは大学生から成人までの幅広い年齢層から選ばれた232人でした。主要な結果は以下の通りです。
- セルフコンパッションと自己肯定感は正の相関を示しましたが、その相関係数は中程度(r = .62)であり、両者が別個の構成要素を持っていることを示唆しました。
- セルフコンパッションと自己肯定感はどちらも心理的健康指標と正の相関を示しましたが、セルフコンパッションは自己肯定感よりも強く相関していました。特に、セルフコンパッションは不安や抑うつなどのネガティブな感情と負の相関を示しましたが、自己肯定感はそうではありませんでした。
- セルフコンパッションは自己肯定感よりも安定した構成要素であることが分かりました。すなわち、セルフコンパッションは外的な評価や比較から影響を受けにくく、自分自身への優しさや共通の人間性などの内的な資源に基づいています。一方、自己肯定感は外的な評価や比較から影響を受けやすく、自分が他者よりも優れているという条件付きの信念に基づいています。
- この研究から得られた結論は、セルフコンパッションは自己肯定感よりも心理的健康や幸福感にとってより有益で安定した自己態度であるということです。セルフコンパッションは自分の弱さや失敗を受け入れ、自分を優しく慰めることで、自己批判や不安などのネガティブな感情を軽減し、自己改善へのモチベーションを高めることができます。一方、自己肯定感は自分の能力や価値を高く評価することで、一時的に自尊心を高めることができますが、外的な評価や比較に左右されやすく、自分の弱さや失敗に直面したときに自己批判や不安などのネガティブな感情を増幅する可能性があります。この研究は、他の研究とも整合的であり234、セルフコンパッションは自己肯定感よりもメンタルヘルスに対してより強力な保護因子であることを示しています。
1: Neff, K. D., & Steger, M. F. (2009). Self-compassion and psychological well-being. Journal of Happiness Studies, 10(1), 1-27. 1 2: Leary, M. R., Tate, E. B., Adams, C. E., Allen, A. B., & Hancock, J. (2007). Self-compassion and reactions to unpleasant self-relevant events: The implications of treating oneself kindly. Journal of Personality and Social Psychology, 92(5), 887-904. 2 3: Neff, K. D., & Vonk, R. (2009). Self‐compassion versus global self‐esteem: Two different ways of relating to oneself. Journal of Personality, 77(1), 23-50. 3 4: Neff, K. D., Hsieh, Y. P., & Dejitterat, K. (2005). Self-compassion, achievement goals, and coping with academic failure. Self and Identity, 4(3), 263-287. 4
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